デザイナーインタビューInterview

エブリィフレシャス・トール+カフェ 愛されるデザインの秘密。
日々目にして、使ってみる。
実体験から見えてくるヒント。

プロとしての意識やスタイルを確立したきっかけは?

安積:ロンドンで、大御所デザイナーのアシスタントをしていた時期があります。いろいろ学ばせていただきましたが、名実ともに影響力のあるインダストリアルデザイナーの引き出しの多さに驚きました。技術的難易度を考慮に入れながら、変更の必要な箇所はアイデアでカバーする切り返しの早さ、アイデアの豊富さに舌を巻きました。こだわる部分を守り抜く意志も強く、結果として良い物ができる揺るぎないスタイルでした。インダストリアルデザイナーとして、とても大きなものを学ばせてもらった感じがします。

1つの製品をデザインする際に、どのように観察されるのですか?

安積:デザインを手がけている間はできるだけ長い時間、その製品をいつも見える場所に置いておきます。使ったり、時々じっと眺めてみたり。すると、思いもしなかったことが少しずつ見えてきて、細かな事にも気づき始めます。たとえば、家電製品を家で使い始めてしばらくすると、最初は分からなかった不具合や問題に気づいた、という経験が皆さんにもあるのではないでしょうか? デザイナーも同じで、自分の側に置いて実際に使ってみることが重要です。圧力鍋をデザインした時は1ヶ月間、毎日圧力鍋料理を作って食べましたし、オーブン用の食器を手がけた時も、お昼ごはんはスタッフ全員でオーブン料理を作って食べ続けました(笑)。ですので、トール+カフェの試作を入手した時も、アトリエに置いて前を通る度に触ったり観察しながらデザインを考えました。

安積さん
実際に使って初めて見える細かな点をヒントにデザインを考えていくそう。

実際に使って初めて見える細かな点をヒントにデザインを考えていくそう。

tall+cafe White
スケッチイメージ
アトリエには安積さんが手がけた作品や試作品が並べられている。

アトリエには安積さんが手がけた作品や試作品が並べられている。

使いやすさを突き詰め
日々の営みに根付かせる。

ではどういう過程を経て、使いやすいデザインを実現するのですか?

安積:ひたすらに細かな観察の積み重ねです。使い勝手の悪い所を徹底的に洗い出し、改善していきます。どこをとっても非の打ち所がないものを目指す。一発ネタでは通用しません。何度も反復し精査して、使い勝手を整えながら違和感を払拭していくという感じです。日々の営みの、本当に微細な隠れた部分にまで配慮してデザインしなければ納得してもらえない、シビアな世界だと認識しています。

ひらめきや発想が沸き上がる時はどういう状態なのですか?

安積:日々同じ行為を繰り返していると、徐々に要点がわかってきます。すぐに理解できるわけではありませんが、沸々と熱が高まってある時点で火が付き始めます。家電製品は機能的な要素が多いだけに、ありとあらゆることを配慮しなければならない。いわば、配慮の塊です。デザイナーは通り一遍ではなく、誰も気づいていないところまで掘り下げなければなりません。世に出す責任もありますし、下手をすれば、使い勝手の悪さに不自由を感じながら使い続けるイライラを、家庭の中に持ち込んでしまうことにもなりかねない。また、あえて極端に言えば、外観より機能性の方が普遍性があると思っています。工業製品の外観もファッションと同じで、その時代の色やスタイルの流行に影響されます。しかし、人間の体や機能は基本的には変わりません。生活に必要で快適な機能を提供する物は、時代を経ても人々に愛され続けると考えています。

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every frecious tall+cafe

プロダクトデザイナー安積 伸SHIN AZUMI

兵庫県生まれ。95年よりデザインユニット「AZUMI」として活動の後、05年に「a studio」を設立。ティファール社やマジス社、ラパルマ社など多くの国際的企業でプロダクトデザインに携わる。FX国際インテリアデザイン賞2000「プロダクトオブザイヤー」(英国)をはじめ、グッドデザイン・ロングライフデザイン賞(日本)など国内外での受賞多数。また審査員としても多くのデザイン賞に関わり、各地の美術館に作品が収蔵されている。

安積伸