デザイナーインタビューInterview
インダストリアルデザインの普遍性。
フレシャスと初めてコラボレーションしていただいたデュオの誕生が2014年。それからもう10年近く経ちます。その間、様々な他社製品が発売されましたが、おかげ様で変わらず好評です。当時を振り返って、今何かあらためて思うことはありますか?
安積:デュオのデザインはクオリティや使い勝手など普遍的な価値にこだわりましたので、時が経っても魅力あるデザインだと感じてもらえているのではないでしょうか。家電製品は常に技術が進化しており、1つのモデルを長く販売し続ける事が難しい領域です。型を変えるなら時代の流行に合わせて外側のデザインも変えてしまおうということになりがちですが、デザイナーとしてはそうではないあり方を示したいという想いが常にありました。ですから、色を変えたり機能を追加するなどアップデートを行いながら10年近く原型をそのまま留めているデュオは、家電デザインの1つの可能性を示す希有な例になっていると思います。
普遍的な色あせないデザインを意識されたのですか?
安積:もちろんです。プロダクトデザインは一期一会ではない、生活の中に長く入り込んで人が直に接するもの。なので、常に使いやすいものをデザインしたいという気持ちを強く持っています。使い勝手が悪いものは長く愛されない、ということは経験的に身にしみていますし、見た目以上に使った時の充実感を提供できるデザインは、私の目指すところです。日々喜びを感じられるものであれば、生活の中の大切な一部となり、たとえ壊れても修理して使ってもらえるはず。デュオはそういったことを意識してデザインしましたので、長く愛され世の中に定着してくれたことをうれしく思っています。
「長く愛される、使いやすいものをデザインしたい」と語る安積さん。
コーヒーの粉が入った「ドリップポッドカプセル」をセットするアダプターを刷新。
以前のデザインから、極限まで切り詰め、すっきりとしたフォルムに。
デザイナーの知見と胆力。
今回新たに手がけていただいたトール+カフェで、特に注力してデザインされた部分はありますか?
安積:アダプターの周辺をスリムにまとめたいと試行錯誤しました。中に入る機械とそれを収めるボディのサイズがある程度決まっており、最初は無理かと思ったのですが、精査すると解決可能な構造が見えてきました。そのことを発見するまでは、どうやってもスリムにならない、格好よくならないと悩みましたが、構造として必要なサイズを再定義し極限まで切り詰めることで、外観をすっきりと上手くまとめることができました。
無理かもしれないと思っても、蓋をせずに違和感の原因を突き詰めていく集中力はすごいですね。
安積:プロはしぶといんですよ(笑)。物を捉えた時にどこまで変えられるか? どう良くできるか? まずはイメージを膨らませます。と同時に、少しでも違和感を覚える事があれば、良く観察し、その原因と改善すべき点を探り出す。観察眼とイマジネーションを広げる能力は、デザイナーが持つべき資質と思います。また、具体的にどうすれば変えることができるかという工業的な知識もなければデザインはできません。たとえ無理難題に思える案件でも瞬時に見極めてクライアントに、こうすれば可能なのでは? と即答できる能力が必要です。変更可能な条件をしっかりと頭に入れて、できるところから地道に変えていく姿勢がインダストリアルデザイナーには必要です。どこまでが変えられる要素なのか、という見極めはいつも気にしています。
兵庫県生まれ。95年よりデザインユニット「AZUMI」として活動の後、05年に「a studio」を設立。ティファール社やマジス社、ラパルマ社など多くの国際的企業でプロダクトデザインに携わる。FX国際インテリアデザイン賞2000「プロダクトオブザイヤー」(英国)をはじめ、グッドデザイン・ロングライフデザイン賞(日本)など国内外での受賞多数。また審査員としても多くのデザイン賞に関わり、各地の美術館に作品が収蔵されている。